目が覚めたら、そこは一面 雪景色でした。
ニ ヒ リ ズ ム の 願 望
A d e s i r e of t h e n i h i l i s m .
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「………は?」 わけがわからない。 今目の前にある景色を見て真っ先に思ったことがそれだ。 何時の間にか視界は一面銀世界へと変わっていた。一面銀世界なんて、マンガの中だけの語彙だ、とはつい先日友達に言ったばかり…だった。が住んでいるところは日本の中でも南の方にに位置する広島県。夏は南の方なだけあって結構暑い方ではあるけれど、冬になればそれなりに寒いし、雪が降る事もある。けど、漫画みたいに辺りが見えなくなるほど吹雪くことなんてまずなかった。しかし、今私の目の前に広がる世界は 何 ? わけがわからないわけがわからないわけがわからない。 同じ言葉が何度も頭の中を駆け巡る。そして、一向に状況を飲み込もうとしてくれない私の頭とは違い、身体はとても正直で、最初はただ単に肌寒いと思っていただけなのに、それを眼にした途端、その寒さは肌を刺すような寒さへと変わり、ぶるりと身体が震えた。私はむき出しのままの肩を両腕で抱きしめた。 真夏日だったのだ。格好はノースリーブに半ズボンという軽装で、とてもじゃないが雪が降っている中でたえられる格好ではない。一気に自分の体温が下がっていくのがわかった。カチカチと上と下の歯がぶつかり合って音を立てる。その震えは、何も寒さからだけではない。頭をよぎるのは―――、 どうしようもない恐怖。 見たことのない景色。見たことどころか、さっきまで見ていた景色とまるで違う。アスファルトの地面に鉄筋コンクリートで作られた建物――――それがさっきまで見ていた景色の殆どだった。………しかし、しかし今はどうだろう?周りの景色の大部分を支配する、背の高い木は見上げてもてっぺんなど見えず、だからと行って地に視線を落としてみてもそこに広がるのは無限の白のみ。灯りもなければ、民家などもってのほかである。 ―――――ここ、どこなの……?! こんなところじゃ、助けを呼びたくても呼べない。むしろ、こんな吹雪の中叫んだところで、助けを呼ぶ声なんて聞き取ることなど出来ないだろう。ならば、やることは一つしかない。不安でしょうがないけれど、ここが何処だと、聞きたくてしょうがないけれど、ガタガタと震えが増してくる自分の身体に鞭を打ってはその場から一歩動いてみた。しかし、前に動かした右足は3センチほど動いただけで、とてもじゃないが前になど進まなかった。それもそのはずである。いつ、自分がここに立ったのかはわからないが、足元には今、膝ほどの高さまで雪が積もっているのだ。 足を止めると、そのまま身体が固まってしまいそうで、は、今度は左足を膝まで持ち上げ一度雪の中から出して、20cmほど前へと踏み込んだ。同じ要領で前へ進んでいく。先なんか見えない。手で壁を作ってみても、気休め程度にしかならない。後ろを振り返ってみても、つい先ほどのことなのに、もう自分が歩いてきた道など見えなくなっていた。歩いた側から足跡は消えていく。その光景を見て、はぐっ、と口をきつく結んだ。じゃないと、いろんなものが溢れてきそうだったから。ゆらゆらと視界はゆれる。もう大分前からだ。 不安。不安、不安……。 視界には相変わらず何も移らない。下手したら、目の前で広げるこの掌さえも見えないほど。 自分は、ちゃんとこの場に存在しているのだろうか ? この先に、希望はあるの―――? 誰かがいるという保障は、あるの ? ―――先へ 、進む意味は、あるの―――? ……ダメだ!考えるな!首を振って、はまた前へと歩き出した。 * どれぐらい歩いただろう…。 時間に換算するともしかしたらほんの少しかもしれない。距離に換算しても、きっとそれもほんの少し。けど、の身体にかかる疲労は、半端なものではなかった。涙が視界を包む。瞼の裏に、次々と記憶が溢れてきた。家族、ペット、友達、家、学校の授業でさえ、今のにとっては暖かい記憶だった。思い出すだけで、固まったと思った涙腺はすぐに緩んでくる。ガチガチと振るえ、もう動かすことさえ困難になった手を動かして溢れる前にその涙を払った。 「…ッゎッ…!!」 その時、雪に足を取られて、激しく転倒した。 雪がクッションの代わりになり怪我をせずにすんだ。痛みもないはずなのに、起き上がろうとしても身体が言うことをきいてくれない。その間にも雪は降り続け、身体の体温は先ほどよりもさらに低下していった。 ―――もう起き上がれない そう思ったが最後。 尋常じゃないほどに身体が震える。むき出しの手足はもうとっくに限界を越えていて、唇は死人のように真っ青であった。 ―――――死ぬ、の…?こんなところで? 倒れこんで、身体が雪の中に埋まっても、の意識はかすかにあった。そして、そのかすかにある意識の中ではそんなことを思っていた。 ガタガタと震える。手も足も唇も歯も―――何もかも。震える唇は今更開けたところで言葉を発することなど出来ない。そんなのわかっている。しかしはゆっくりと口を開いて、一つ一つの言葉を丁寧に発した。視界がゆらゆらと揺れる。流れた側から固まっていく涙はの頬に一筋の道を残していった。 「 お か あ さ ん 」 その声は決して誰の耳にも届く事はなかった。 ――――――――直後、まるでその声を聞きつけたようにこの場に現れた、白い生き物以外は…………… title by [ Rachael(レイチェル) ] 2008.11.19 |