ニ ヒ リ ズ ム の 願 望
A d e s i r e of t h e n i h i l i s m .
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事が動き出したその日。彼女の運命が変わった日。サンにとっては全てがいつも通りだった。 いつもと同じ時間に目が覚め、いつ見ても変わらぬツナギを見にまとい、朝食もそこそこに自分の仕事をこなす。そして仕事が終わると自室に戻って船員に頼まれている服の修理をこなし、昼食を食べ、昼寝をしたり新しい服を作ったり時には仲間とバカな話で盛り上がったり。そうして夕食を食べ酒を飲み眠りにつく。 そう、確かに何もいつもとは変わらずに動いていたようだった。 その日常が変わりだしたのは、昼食を食べ部屋に篭って作業をしていた時、外が騒がしくて様子を見に行くと廊下に人が群がっていたということからだろうか。 「…………何してんの、あんたら」 「なんだサン、見ないと思ったら部屋に篭ってたのか」 「誰かさんが性懲りもなくまた服を破ってくれたおかげでな……って、じゃなくて。これなんの集まり?」 「キャプテンとあのベポが連れて来た女の子が話してるらしいぜ」 キャスケット帽を被った仲間が笑みを浮かべて言う。それを聞いて、サンはさして興味もなさそうに「ふーん」と返事を返した。ベポが連れて来た女の子――名はというらしい。気づけばその女の子が船に乗ってから約2週間がたっていた。しかし、ベポがを連れ帰ってきたあの日も部屋に篭っていたサンは、をまだ一回も見たことがない。知っているのは、女の子だということ、体を動かせないということ、そして自分の部屋の斜め前の部屋にいるということ、ぐらいだった。 「本当に居たんだ」 「……ま、俺もそれは思った」 なので、そういう疑問をもつのにも十分頷けた。 サンは扉を閉めると、キャスケット帽を被った仲間の隣まで歩き、腕を組みながら壁に背をつけた。 「で?」 「”で”ってなんだよ」 サンの言葉にキャスケット帽の仲間は肩をすくめながら聞く。そんな彼にサンはわざとらしくため息をついて「だから、」と言葉をつなげる。 「なんで今更船長と話してんの、ってこと」 「ああ……ほら。こないだドクターが怒ってたじゃねーか、食堂で。無関心なキャプテン捕まえて。」 その時のことを思い出したのかキャスケット帽の彼はくつくつと喉で笑う。サンも目を閉じながらそのときのことを思い出そうとして変な顔になっていた。 船長は良くも悪くもハッキリした人だ。興味のあるものはとことん追求するが、興味のないものには見向きもしない。だから、1週間前ドクターが船長が詰め寄っているのを見て”船長はあの女に興味がない”のだろうと思ったのだ。ドクターは何度もあの女と話してみろと言っていたが船長は聞く耳を持っていなかったし、だからドクターがいくら言おうと船長が彼女と話すことはないだろうと思っていた。 しかし、キャスケット帽を被った彼は今、船長がその女と話しているのだと言う。 (会わずにいつの間にか居なくなるパターンだと思ったけど……) 船長が女に興味を持っていないのと同じく、サンも仲間とは違って興味がまったくなかったのでそんな船長に少しだけ驚いていた。 「あ、出てきた………うっわ…機嫌悪っ…」 苦笑いを浮かべながら言ったキャスケット帽の彼の言うとおり、出てきた船長は大層機嫌が悪そうだった。眉間にはしわを寄せて、廊下にたまっていた仲間にすれ違い様に蹴りを入れていた。何がそんなに気に食わなかったのだろうと考えて、すぐにその原因に思い当たった。船長に続いて出てきたドクターが仕方なさそうにため息をついているのを見てその考えは確信に変わる。絶対あの部屋の中でなにかあったのだと。 隣にいるキャスケット帽の仲間は船長が機嫌が悪くなった理由を疑問に思っていたが、サンはどんどん遠ざかっていく船長の背中を興味なさそうにじっと見つめ、そして廊下から去っていく仲間の中に赤いバンダナをつけた男を見つけると、不機嫌そうに顔をしかめて背中に蹴りを入れた。隣にいたキャスケット帽の仲間はそんなサンに「うおっ」と声を上げて、当然突然蹴りを入れられた男も前方にこけながら驚いて振り返った。 「何すんだよサン!!」 「別に?お前の背中見てたら無性に蹴りたくなって」 「はぁあ!?……お前、まだ服のこと怒ってんのかーぁ!?しょーがねーだろ!服はいずれ破れるもんなんだよ!」 「なんだと!?お前その言葉何回目だと思ってんだ!?破くにも限度があんだろ!作ってまだ3日だぞ!いい加減にしろ!お前は大人しく船でも治しとけよ!!」 「なんだよ、そういうお前だって大人しく服だけ作っとけよ!!」 いきなり始まった言い合いに最初は「なんだ?なんだ?」と言い出していた周りも、そんな騒ぎを起こしているのがサン達だとわかると、またあいつらか、とため息をついて去っていった。その間にもまだ言い合いを続ける二人に、キャスケット帽の仲間はうんざりしながら「いい加減にしろよー…」と声をかけていた。 「もーお前らの言い合いは聞き飽きたっつーの。もーいーからアスカ向こう行っとけ」 「なっ…!元はといえばサンから仕掛けてきたのになんで俺がそんなぞんざいな扱いなんだよ!!?」 「あーうるせ。……ペンギン、こいつ連れてってくれよ」 キャスケット帽の仲間が耳に指をつっこみながら顔をしかめる。そして丁度横を通り過ぎてったPENGINと書かれた帽子を目深に被ったペンギンを呼び止めた。振り返った男は一度キャスケットを振り返り、小さく苦笑すると「ほらいくぞ。食堂の椅子まだ直してないだろ」と言ってアスカの腕を引っ張っていった。アスカは船大工としてこのハートの海賊団の船に乗り、家具などの修理も行っているのだ。ペンギンに腕をひっぱられアスカはしぶしぶ甲板の方へと歩いていった。しかし、その姿が見えなくなるまでサンをにらむのを辞めなかった。 「アスカに喧嘩売んのやめろよ」 キャスケット帽の仲間が呆れて言う。 「あいつが破かなかったらいいだけの話」 サンはフンッと鼻息を荒くして部屋の中に戻っていった。 その頃にはもう、ベポの連れて来た女の子のことなどサンの頭の中には入っていなかった。 直接本編には関係ないけどあった方がいいような感じのお話。 サンとアスカは今後もちらほら出てくるオリジナルキャラクターです。 title by [ Rachael(レイチェル) ] 2010.05.28 |