言えるはずがない。
ニ ヒ リ ズ ム の 願 望
A d e s i r e of t h e n i h i l i s m .
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厨房につくと、ニルさんはもうすでに作業を始めていた。いつものようにところどころ汚れた白い服を着て、いつものようにあの鋭い眼をして。いつもより、やはり少しだけ時間が過ぎていた。怒られはしなかったが、睨まれたような気がした。・・・これなら怒鳴られた方がまだましだ。そう思っても言えるわけがないのだけど。 厨房に行くには食堂の扉から入る他なく、ニルさんに睨まれるとすぐに謝って厨房に駆け込んだ。その途中、いつもは綺麗に配置されているテーブルがなぜかすべて端の方に寄せられていて小首を傾げたが、ニルさんに「気にするな」と一括されていつものように食器洗いを始めた。 私の仕事の始まりは、まず朝のあいさつから始まる。ニルさんは、礼儀に厳しい方で、挨拶もろくにできねぇのかと凄まれたのはまだ昨日のことのように思い出せる。 それから食器洗い。この船の人は大抵夜中にお腹が空いて一度は食堂を訪れるらしく、そのたびに作っていたら食材もなくなるし自分も寝れないからと気候が寒い期間限定で夕食の残りをカウンターに並べとくんだそうだ。ちなみに夏場は傷みやすいし危ないのでなし。冷蔵庫に入れても結局は鍵がかかってるので意味がなかったりする。(つまみ食い防止のためらしい) その食器の洗い物が終わると簡単な仕込みをする。こないだやったみたいにひたすら玉ねぎを切ったり、ジャガイモの皮をひたすら剥いたり、そんな簡単な作業だ。お母さんのお手伝い程度しかやったことのない私にそれ以上のお手伝いは出来ない。ニルさんもそれはわかっているのか、それ以上の作業を頼んでくることはなかった。でも、最初は包丁すら持たせてくれなかったのだ。玉ねぎを切るだけでも、ちょっとした進歩と言える。その進歩は嬉しいのだが、それでもやっぱりお手伝いの途中にニルさんに怒鳴られることだけは減らないのだった。 「おい!いい加減にしろ!ぼーっとしてんなら部屋に帰ってろ!!」 多分、今までで一番大きな、怒鳴り声。 ビクッ!と体が震えて、そしてようやく気がついた。 「ぁっ・・・」 さっき、キャスケット帽を被った人に会ってからどうしても落ち着かなくて。考えない考えないとまるで自分に暗示をかけるようにして作業をしていたのだが、思考の海に沈むことが何回もあった。扉を開けたらそこにはあの人だけじゃなくて、もっと人がいて・・・、それで私のことを睨んでるんだ。キャスケット帽の人も今度はにっこりなんて笑ってくれない。なんで逃げたんだよ、って私に怒ってる。 そんな想像が次々と浮かんでくるのだ。これから先ないなんて言えない出来事なだけに、不安で、心配で、しょうがなくなる。 その度にニルさんの怒鳴り声が飛んでくる。実は、さっきの怒鳴り声も、今日だけで3回目だったりする。でも、今回ばかりはどうしようもない。ニルさんに怒鳴られて慌てて気づいたが、もうその時にはすでに遅く、玉ねぎを切るためにもっていた包丁はザックリと私の指を切っていた。 真っ赤な血が傷口から溢れてくる。包丁を手放して傷口の近くをギュッと握り締めた。カランっと包丁が床に落ちる音がした。 「・・・切ったのか」 上から見下ろすように聞いてきたニルさんに、私は小さく頷いた。 「ぼーっとしてるからだよ・・・包丁持ってる時は気をつけろって最初に言っただろ」 「・・・は、い・・・すみません」 ニルさんは腕を掴みあげて傷口を見ると、白い布巾を持ってきて躊躇なく傷口を覆った。・・・少し痛い。鈍い痛みが傷口から腕まで走ってきて、歯をかみ締め思わず眼を瞑った。 「・・・意外と深いな」 言うや否やニルさんはさっきと同じように腕を掴んで歩き出した。その速さはまるで引きずられるようで慌てて足を動かした。大きなニルさんにとっての一歩は大きく、もはや私は走っているようだった。 厨房に来てから30分は経っていたが、それでも早いこの時間はまだ誰も活動していないらしく、私たち以外の人影はない。もしこれが朝方ではなく昼間や夜だったら・・・。そう考えるとぞっとする。さっき考えたことが頭をよぎった。怖い・・・。怖い、。怖い。 気を抜くと全身が震えそうで、必死にニルさんの掴んでいる腕に伝わらないように頑張った。 ふと、目の前を進んでいくニルさんを見てみる。・・・イライラしているのが後ろからでもわかる。手とは別に胃がシクシクと痛んだ。迷惑、かけてる。どうして・・・私は・・・こんなに迷惑しかかけれないんだろう・・・。お手伝いに来てるのに、これじゃあ余計な仕事を増やしてるのと一緒じゃないか。 居たたまれなくて下向いたその時、よどみなくうごいていたニルさんの足が止まった。 「おいドクター!起きてるか!?」 ドンドン!と強く扉を叩いた。数秒遅れて、くぐもった声が聞こえてきた。 「・・・だーれだよこんなに時間に・・・ってニル?めっずらしい。・・・ん?」 ニルさんの体の影からひょっこりと顔だけが出てきた。金髪のふわふわした髪の毛が四方八方に跳ねていた。まだ寝ていたらしい。 「あれ、お嬢、ちゃん?っておわ!?怪我したのか!?」 そう叫んでからのドクターさんはとても早く、先に言えよ!っと、ニルさんの体を横に突き飛ばして私の体を部屋の中に引っ張った。ベッドに、机に、ソファーに。私の使っている部屋よりも幾分か広い部屋には生活観が漂っていた。ドクターさんは少しだけくしゃくしゃになったベッド(多分さっきまでドクターさんが使っていたベッド・・・)に私を座らせると、傍の棚から大きな木箱を取りだした。 後から遅れて入ってきたニルさんは、机の前にある椅子に気ダルげに座った。 「あの・・・ごめんなさい・・・」 「ん?何が?」 本当にわからなそうに、目の前に座ったドクターさんが目を丸めた。 でも、その顔はまだ眠そうにしている。 「・・・まだ、寝てたのに・・・」 「あーまぁどうせもうすぐ起きるしね。それに、医者は『24時間年中無休』が基本ですから」 そう言ってにっこりと笑うと、”結構深く切ってるねー”と傷口に当てた白い布巾を取って言った。本当に気にしていないんだというのはわかる。けど、でも・・それでも申し訳なくて、唇をかみ締めた。 ドクターさんが木箱から取り出した綿に消毒液をしみこませていると、その後ろから少し控えめなくしゃみが聞こえてきた。ドクターさんと一緒にその音がした方を振り返ると、ニルさんが無言で鼻をかんでいた。 (そう言えば、年中鼻炎だって・・・言ってたっけ・・・) かみ終ってすぐもう一枚ティッシュに手をつける。ズルズルズルと終わりの無い音が聞こえて、見かねたドクターさんが「もうお前は戻っててもいいぞー」と声をかけた。そう言ったドクターさんはもうニルさんを見ていなくて、消毒液が染み込んだ綿を傷口に押し当てていた。途端に鈍い痛みが走る。 「・・・ッ・・・!!」 「痛いなーでも我慢だ。嫌だったら次から気をつけようなー」 笑いの含んだその言い方に怒りは微塵も含まれていない。しかし、それはとても痛い言葉だった。 果たして、”次”がちゃんとあるのだろうかと。 「・・・今日はもういいから部屋に帰ってろ。その傷・・・2,3日は無理だろ」 その不安、を、煽るようにニルさんの言葉が響く。 「あーまー・・・あんま水にさらさない方がいいな」 「・・・つーことだ。」 じゃ、俺は戻る。言うや否やニルさんは本当に部屋を出て行った。部屋を出る直前また大きなくしゃみをもらしていたが、今回は先ほどのように何かを考える余裕はなかった。 私の不注意でベポやドクターさんたち以外の船員さんに会って、それで、勝手に落ち込んで、勝手に・・・不安になって。それでせっかくお手伝いさせてもらってるのに、集中出来なくなって怪我をして・・・、まだ寝てたドクターさんを起こして手当てなんかまでさせてしまって。挙句の果てには私の不注意から始まった身勝手な怪我のせいで、手伝いを休んでしまった。 船長さんは言った。 「船を降りるか、この船での身の振り方を考えるのか、どっちかだ」・・・っと。 彼がこの言葉を本心で言ったのではないことはすぐにわかった。でも、だから、この約束を破れば、どうなるのかも、すぐにわかった。 ニルさんが、もうこなくていいと言ったら、私は、この船での身の振り方をなくすことになる。 そんなの自業自得だ。でも・・・だから・・・そんな自分が情けなくて、よりいっそう唇をかみ締めた。 「・・・・今日、気づいてないかもしれないけど、この船海面に出てるんだよ?」 唐突にそんなことをドクターさんが言う。言っている意味がよくわからなかった。俯いていた顔を上げると、ドクターさんの綺麗な緑色の瞳と目が合った。 「気づいてた?この船は潜水艦でね、海の上じゃなくて海の中も走れる船なわけ」 「せんすい・・かん・・・」 「そう。昨日までは海の中にもぐってて、で、今日からは海面に出る日。いい機会だし、ベポでもつれて外に出てみな」 ”はい、完了。”っと、ドクターさんは笑う。いつの間に終わらせたのか、包丁で切った右手には包帯が巻かれていた。そんな大げさな、とその包帯をちょっと不満げに見つめていると、それに気づいたのか「包帯は勝手に取らないようにな」と少し厳しい表情で釘を刺された。 「・・・ありがとうございました」 それでもまだ不満だったが、お礼を言うと、ふとドクターさんに見つめられた。その眼は何かを探っているような眼で、すぐにでも俯いて逸らしたかったが、なぜだかそれが出来なかった。そう言えば、こんなに眼が合うの、初めてだ。緊張と・・・恐怖で、ベポ以外の人といつも3秒と眼を合わせていられないから。何を言われるのだろうかと体がこわばった。 「・・・最近、ご飯はちゃんと食べてる?」 予想もしていなかった言葉に、ぎくっとしたが、慌てて心の中にしまいこんだ。 「食べて、ますよ?」 「・・・そう。・・・・ねぇ、やっぱ今外に出てみっか。今だったら誰も外にいないし、君もその方がいいだろう?」 確かに、人がいるのといないのだったらいない方がいい。ベポと一緒に外に出るとその分他の船員さんたちに会う可能性は高まる。しかし、そもそも私は別に外に出たいとは思っていなかった。外の景色なんて見る気分ではなかったから。ドクターさんはきっとそれに気づいて、気分転換になると思ってそう言ってくれたんだろうが、見てもこの気分が晴れることがないことは自分がよくわかっている。 しかし、そんなドクターさんの気遣いを無碍にすることは出来ずに、私は小さな声で「・・・はい」と返事を返した。 * それから、少し待っていて、と言って部屋を出ていったドクターを部屋の中で待つこと5分ほど。毛布とポットを持って戻ってきたドクターと一緒には始めて外に出た。この船に乗って間もない頃、ここは船の上なんだと聞いた。寝ていても起きていても体が揺れる感じはあったが、一度も外を見たことがなかったには「海の上にいる」んだという実感がどうしても持てずにいた。 ―――でも、 「・・・・・うみ」 「まさかはじめて見るなんて言わないだろ?」 面白そうにドクターは笑ってに毛布をかぶせる。まだ明け方とあって肌寒い。は被せてもらった毛布を握り締め、ゆるゆると首を振って「・・・はじめて」と呟いた。 「こんなに・・・綺麗な海は、はじめて・・・」 生まれは都心だった。夏休みに家族で海に行ったことはあったが、こんなに澄んだ海ではなかった。どちらかというと緑色をしていて、砂浜にはワカメや海草がいっぱいうちあげられていた。そんな光景を見て海というものに憧れを抱いていたはすごく落胆して、それをみたお母さんとお父さんがくすくすと笑っていた。お兄ちゃんは「沖縄はこんなのと比べ物にならないほど綺麗なんだけどな〜」と残念がるようにの頭を撫でてくれた。それを聞いて、じゃあ来年は沖縄に行きたい!と駄々をこねて両親を困らせたっけ。結局、沖縄行けなかったなぁ・・・。綺麗な海は、見れたけど・・・何でかな、嬉しいのに・・・、全然嬉しくないよ。 「・・・・ほら、こっち」 海を見つめたまま固まってしまったらしい。腕を引っ張るドクターについて、壁に背をつけて座った。手すりの向こうに、太陽の光を浴びてキラキラと光った海が見えた。 (どうせ見るのなら家族と一緒に見たかった・・・な・・・) 目頭が途端に熱くなる。視界が揺れそうになって、ギュッと毛布の中で腕を強く握った。泣くな。泣くな。泣くな。泣かないって言ったじゃない。まるで睨みつけるように海を見つめて必死に涙を我慢した。その時、視界の端に銀色の入れ物がスーと入ってきた。 「温まるから飲みな?」 にっこりと笑ったドクターも同じような銀色の入れ物を持っていて、「フー、フー」と冷ましながら飲んでいる。受け取った入れ物を覗くと、白い液体が入っていた。・・・ホットミルクだろうか。ドクターさんが飲んでるのも同じものなのかな。そんなことを思いながら同じように「フー、フー」と冷ましてカップに口をつけた。・・・甘い。にはちょうど良い甘さだったが、ドクターのような大人の男の人が飲むには甘すぎる気がする。チラっと横を見てみるが、無理をしている様子はなかった。・・・甘いもの好き?ああ、そう言えばベポが前そんなこと言ってたような気がする。まだベッドから起き上がれずずっと一緒にいられるのはなぜかとベポに聞いた日のことを思い出した。 他にはどんなことを聞いたんだっけ?と思いながらそのままドクターの横顔を眺めていると、ふいに横を向いたドクターと眼が合った。 「・・・俺の顔なんかついてるか?っていうか冷めるぞ?」 「あ、いえ、はい・・・」 慌てて眼を逸らしてホットミルクを飲んだ。ギシリ ギシリ と船が軋む音がする。そしてとドクターのホットミルクを啜る音だけが辺りには響いた。気まずい。この空間を言葉で表すならその一言に尽きる。1分・・2分・・・と時間がたって、ついに耐えられなくなったは重たくなった口を開いた。 「・・・あ、あの・・・、聞いても、いいです、か・・・?」 「ん?うん、いいよ」 「えっと・・・あの・・・ドクターさんは・・・」 「――ストップ。そういえば言ってなかったっけ。俺の名前は『シグマ』ね。まぁこの船の奴は大抵『ドクター』って呼ぶけど、名前を知られてねぇってのは悲しいからな。一応だ」 ニッと笑ったドクターが続きを促す。名前で呼べと言われたわけでもドクターと呼ぶなと言われたわけでもない。どちらも言われなかったから逆に困るのだが、名前を呼ぶには馴れ馴れしくすぎるかとやっぱりは”ドクターさん”と呼ぶことにした。 「えっと・・・ドクターさんは、この船に乗って長いんですか?」 「ああ、俺は旗揚げ当初から乗ってるよ。船長とは同郷なんだ」 ドクターは軽口で話す。あの怖い船長と同じ出身だと聞いて、だからあんなことが言えたんだ、とは船長ともう一度話すことになったあの時のドクターの態度を思い出して納得した。「船長」と呼んでは居るが、とても部下が上司に接する態度には見えなかったからだ。そしてそんな彼を「船長」も咎めなかった。 「ちなみに北の海ってとこ・・・だって言ってもわかんねーか」 「のーすぶるー・・・?って、あの・・・、海の名前、ですよね・・・?」 「そうそう。北の海、南の海、西の海、東の海。東の海は4つの海の中で最弱だと言われ、南の海は4つの中でダントツで暑く、そして北の海はその対極で4つの中でダントツで寒い。ま、だから、北の海生まれが多いこの船の奴は寒さにはめっぽう強いんだけど、その分暑さにはとことん弱い」 ハハハ!と面白そうに笑うドクターには素直に羨ましいと思った。寒さには強いと言ったドクターとは逆に、は寒さが苦手だったからだ。今もは毛布を被っているが、ドクターはその身一つでホットミルクを啜っているだけ。別段寒そうには見えなかった。 「他に聞きたいことは?」 優しい眼でドクターは問いかけてくる。 その眼はまるで、”そんなことが聞きたいんじゃないだろう?”と言っているようで。 「・・・家族、とか・・、いらっしゃるんですか・・・?」 「・・・いるよ。正確には、居た、だけどね」 バッ!とそちらを振り向くと、ドクターは悲しそうに顔を伏せていた。 「もうだいぶ前の話だ。俺と船長がいた村全体にある伝染病が流行ってな・・・村にいた医者全員で手を尽くしたんだけど、結局どうにもならなかった。俺の家族も、あいつの家族も・・・みんな死んだよ」 「・・・・」 「重たい話だったな。・・・そんな顔するなよ」 自分がどんな顔をしていたのかわからないが、こっちを向いたドクターが優しく笑っての頭を撫でた。 優しく微笑むドクターが余計に痛々しくて、の胸を締め付けた。 「・・・寂しく、ないですか?」 自分で聞いておいて、寂しくないわけがないだろうと心の中で叫んだ。 しかし、ドクターはの頭を撫で続けながら一層優しく眼を細めて笑った。 「・・・寂しくないよ。俺にとって、この船が家で、仲間が家族だから」 そう言うドクターには何も言えなかった。なんて、重たい言葉なんだろう。 自分には家族がいる。会えないけど、生きている。 自分には帰る家がある。帰れないけど、無くなったわけじゃない。 帰る家が無くなったら寂しいし、家族が居なくなったら悲しい。悲しくて、やっていれなくて、泣いて泣いて泣いて、もしかしたら死ぬかもしれない。けれど、ドクターは笑うんだ。そう思えるようになるまでどれほどの時間が必要で、どれほど苦しんだのかなんてにわかるわけがない。 零れそうになる涙を隠すようには俯いて湯気が立つコップの中を覗きこんだ。 「今度は俺が聞いてもいいか?」 ドクターは頭を撫でるのをやめての顔を覗き込むようにして言った。 「君の家族は、どんな人?」 「へ?」 その言葉の意味が理解できずに思わず間抜けな声が出てしまった。 「好きなんだ。家族の話を聞くのがね。もし、嫌じゃなかったらだけど」 ドクターはそう言うとホットミルクを飲んだ。は少し戸惑った。家族がいないドクターに家族の話を聞かせるなんて・・・辛くならないのだろうか。伺うようにチラっと見れば、ドクターはにっこりと笑う。それでも少し、躊躇したが数秒しては小さく呟くように口を開いた。 お母さんは、かわいい人、だ。娘の私から見ても、すごくかわいい人。ふわふわしてて、いつもニコニコしてて、言うなら周りに花が飛んでるような。そんな感じ。それで、それでお父さんといつもラブラブしてる。ご近所さんでも噂になるくらい仲が良くて、今日もお母さんとお父さんは仲良いわねーってそれはもう毎日のように言われてるくらい。 それで・・・お母さんの料理は、いつもすごく美味しい。ニルさんの作るような豪華な料理じゃないけど、でも、あったかくて、食べたら幸せになるようなそんな料理。家族みんながお母さんの料理が大好きで、だから、外食なんてホントに数えるくらいしかしたことがなかった。私もいつか、お母さんみたいに料理が上手くなりたいって言ったら、はお母さんに似てるから大丈夫よーって笑ってくれたっけ。でも、私の料理の腕は本当に呆れるくらいへたくそで、・・・でも、いくらたっても上達しない私の料理の腕を、お母さんがバカにすることは決してなかった。いつも優しく微笑んで、大丈夫だって、言ってくれた。だから私は、いつも次こそ頑張ろうって思えて・・・。こんなことなら、もっとちゃんとしとくんだったな・・・。 お父さんは、優しい。とにかく優しい。元暴走族・・・って、昔ちょっと悪いことしてたらしいけど、今じゃそんな雰囲気カケラもなくてお母さんみたいにいつもにこにこして幸せそうにしている。あとお母さんのことが大好き。たまにお母さんにでれでれしてて気持ち悪いけど、私にも優しくて、あ、でもお兄ちゃんにはちょっと厳しいかな・・・。こないだお兄ちゃんが友達と喧嘩して帰ってきたときはすごい剣幕で怒ってたけど、でもその理由っていうのが喧嘩に負けて来たからだって、言ってて、思わず笑っちゃったけ。 あとは、すごく涙もろい。お母さんに怒られたらいつも本気でへこんでいる。それで私が慰めると感動してまた泣いちゃったり。映画とか明らかに狙ったような感動物もすぐグスグス泣いて。そうそう、小学校の授業参観の時なんて、ちゃんと答えられたのみただけで泣いちゃったりしてたっけ。大きくなったんだなぁ・・・って、そんなところで実感されてもねって思わず呆れちゃったけど。 なんかそう聞くとちょっと頼りなく聞こえるけど、でもお父さんは本当にすごく頼りになるいいお父さんだと思う。前、お兄ちゃんが学校で同級生と喧嘩したときも、一方的にお兄ちゃんだけを怒った先生に逆切れして、あいつは訳もなく喧嘩したりするような奴じゃない!ってお兄ちゃんのことを庇っていた。それを見たとき、やっぱり、お父さんが私たちのお父さんで良かったって、本気でそう思った。まぁ・・・その後先生に切れたのがばれてお母さんに怒られてへこんでるのを見たときはちょっと情けないって思ったけど、・・・でも、結婚するならお父さんみたいな人がいいなぁって、やっぱりそう思うんだ。 後、お兄ちゃん。お兄ちゃんは、・・・やんちゃ。私と違って派手なことが好きで、あ、子供の頃から空手を習ってたって言ってたっけ。私が小学校に上がった時くらいに辞めちゃったけど、結構強かったともっぱら噂だ。 学校では、ちょっと怖いって言われてるけど、家では・・・すごく優しい。よく友達と遊びに行っては、そのたびに私にお土産買ってくるのだ。小さい頃はくまのぬいぐるみとかキーホルダーとか。今考えたらお兄ちゃんみたいなのがそんなの買うのにどんだけ勇気がいったんだろうって。あとはご飯のときに私の好きなものが出ると絶対に私にくれたりする。お兄ちゃんが食べなよって言うんだけど、いつも気づいたら口に放り込まれてて。お兄ちゃんの友達は、優しいっていうか、そこまで行くと甘いだけだって言うのだが・・・、でも、やっぱり私にとってお兄ちゃんは、本当に、すごく、優しい人なんだ。 お母さんと喧嘩した時慰めてくれたのはお兄ちゃんで、同級生に泣かされたとき助けてくれたのもお兄ちゃんで。いつも私の頭をわしゃわしゃーって、まるで犬にするように撫でるのだが、でも、私はあったかくてすごく好きなんだ。いつもは照れくさくて、言えないけど。 今頃、何してるのかなぁ・・・。 お母さんの料理が食べたいな。お父さんにぎゅってされたい。お兄ちゃんには頭を撫でてもらって。 そんなことを考えて、ギュッと眼をつむった。 気を抜くと今にもいろんなものが流れていきそうで、グッと身体の中に全てを押しとどめた。 乾いた唇は、もう家族を語らない。否、語れなかった。 ドクターは手に持っていたホットミルクを床に置くと、やさしく何度もの頭を撫でた。 「・・・・・・・会いたいね」 「・・・・そう、ですね」 零れてしまいそうだった。もう、何もかもが。 でも、必死にその顔に笑顔を貼り付けて、平気なふりをして声を絞り出した。 だって、言えるはずない。 家族が恋しいなんて。会いたいなんて帰りたいなんて。 こんなにも毎日を一生懸命生きている人たちに、そんな泣き言 言えるはずないじゃない。 必死に絞り出した声は幸いにも声は震えていなくて、でも、ごまかす様にもうすっかり冷めてしまったホットミルクを飲み込んだ。 大丈夫。大丈夫。辛くない。大丈夫。そう、何度も心の中で呟いて。 怒 ら な い で く だ さ い 。 お 願 い し ま す 。 ホントはベポにしようかなぁと思いながらあー性格的に話聞くのはドクターっぽいなって思ってドクターにしてしまいましたごめんなさい。もうすぐしたらベポでるよ!でもここら変は実はキャスケットとその他船員との絡みを重視したお話が多いんです、よ。最後の最後でやっとキャプテン出るみたいなごめんなさい。もう少々お付き合いくださいませ。 title by [ Rachael(レイチェル) ] 2010.12.29 |