人は一人では生きられない。
ニ ヒ リ ズ ム の 願 望
A d e s i r e of t h e n i h i l i s m .
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夢を見た。夢の中でも私は眠っていて、起きると目の前には見慣れた光景が飛び込んでくる。私の部屋だ。慌てて部屋を飛び出し、リビングに行くと、お母さんがいつものように鼻歌を歌いながら朝食を作っていた。眼が合うと、お母さんがにっこりと微笑み、「おはよう」と言った。いつも通りの光景。いつも通りの朝。私は、(なんだ・・・、アレはやっぱり夢だったのか・・・)と、ホッと息をつく。それもそうだ。遊びに行った帰り道、いきなり目の前が雪山になって?拾われたのが海賊船で?白熊が喋ったり歩いたりして?そんなことが現実に起こるはずがないじゃないか。そう、微笑み、お母さんに「おはよう、あのね・・・」―――と、さっきまで見ていた夢の話をしようと一歩踏み出した瞬間、 今さっきまで目の前にいたお母さんも、見慣れた我が家もガラガラと崩れさって―――目が覚めた。 「・・・・・最悪・・・」 思わず声がもれて、毛布の中から出した両腕で目元を押さえながらぐっと唇をかみ締めた。 3日。 怪我をしてこの部屋にこもるようになってから3日。 同じような夢を、見続けるようになって、――3日。 「・・・・おかあさん・・・」 情けない声。ぽろり と腕の下で涙がこぼれる。 夢はいつも、私が眠っているところから始まって、お母さんが出てきて、一歩踏み出した瞬間に全部が崩れていく。いつも一緒。いつも、同じ。私がお母さんに触れることはできない。 どうして、お母さんを思い出させるの。 どうして、帰りたいと思わせるの。 まるでそれが出来ると、期待をもたせるように。 気づけば腕に下で流れだした涙は一粒で終わらずに目の横を流れてシーツを濡らしていた。止めようと目に力を込めても、嗚咽をもらさないように唇をかみしめても、一向に止まらない。 (ああ、もう!泣きたくなんて、ないのに!) ボロボロとみっともなく流れる涙に、腕で目を押さえるのをやめてグイッと勢いよく目元を拭った。 ベッドの上で起き上がると、そのまま涙を吹き飛ばすようにバシンッ!と両手で頬を思いっきり叩いた。深呼吸を繰り返すと、喉がひくひくと少しだけ泣いたけど、涙はそれ以上こみ上げてこなかった。 よし。これでいいんだ。この船に残るって決めたあの日から、泣き言はもう言わないって決めたんだから。自分で、決めたんだから・・・。 体育座りをした自分の足に顔を埋めた。抱き込むようにギュッと握った両手が少しだけ震えているような気がしたけど、気づかないふりをした。 いつかきっと慣れるはずなんだ。 この胸の痛みも、こみ上げてくる想いも。 いつかきっと無くなるはず。 だからそれまで耐えるんだ。 コンッ コンッ 「(ビクッ!)」 扉がノックされる。顔を上げて勢いよく扉をむいた。 ―――誰? 身体が震えた。今は、誰にも会いたくない。たとえベポでも。 けれど、そんな私の想いとは裏腹に、扉の前の客人は、再度扉をノックした。 ゴクリ。生唾を飲み込む。震える身体に鞭を打って、ベッドから降りて扉に向かった。そっと近づいて、音を立てずに扉に手をつく。木材独特のざらざらした感触がやけにハッキリ伝わった気がした。 ドクンドクンと、心臓は大きく音を立てる。 扉の向こうで、スゥ―・・・と、息を呑む音がした。 「・・・開けてくれ。話がしたいんだ」 聴こえてきた声は、どこか聞き覚えがある。 この船で、聞き覚えのある声なんて数人しかいない。ベポに、ドクターさんに、ニルさんに。そして、船長さんと・・・、・・・・・・あの朝、会った、キャスケット帽の人。 あの、人だ。 どくんっ と、心臓がはねた。あの日のことが脳裏に蘇る。彼は私ににっこりと笑ってくれたのに、安心させようと優しい言葉をかけてくれたのに、私は全部を無視して・・・彼から逃げ出した・・・。怒っているんだろうか。やっぱり、なんで逃げたんだよ、って聞きに来たんだろうか。さっき思ったことは想像じゃなくて現実? 一気に不安が押し寄せる。扉に手をつけた手が視界の端でかすかに震えている。不安が一気に押し寄せた。 自分は、にっこりと笑ってくれたあの人から逃げた。安心させようと、してくれたのに・・・、全部を無視して、逃げ出したんだ・・・。怒って当然だ。 何を言おうとしたのか、自分でもわからないけれど、口がパクパクと動く。けれど、その口が言葉を発することはなかった。扉の向こうで人が動く気配はない。まだあの人は目の前にいる。 また、私は無視するのか?優しいあの人のことを、―――また。 ・・・・・そんなの嫌だ。 扉につけた手を握る。震える口を開いて、喉に力を入れた。 「・・・は・・・い、」 か細い声。限りなく小さい。けど、私たちの声以外何も聞こえないこの空間では十分だった。 扉の前の空気がかすかに和らいだのがわかった。 「君と話がしたいんだ。開けてくれないか?」 優しい声だ。あの時のような。 こんな風に言われたら開けないわけにはいかない。震える手を伸ばして、取っ手を握った。ゆっくりと、少しだけ開くと、今度はそんな小さな隙間からでも見えるところに、その人は立っていた。 目が合うとあの朝みたいに笑った。 「3日ぶりだな」 そう笑う彼に、私はゴクリと唾を飲み込んだ。 * * ゆっくりと開いていく扉にキャスケットはほっと息をついた。扉を開けるどころか、声すら聞けないと思っていたから。しかし、そんなキャスケットの思いをいい意味では裏切ってくれた。 返事を返してくれた。自分から扉を開けてくれた。言葉にすると本当に些細な出来事であるが、キャスケットにはそんな些細や出来事がとても嬉しく感じた。 思わず、小さく開いた扉の隙間から見えた彼女ににっこりと微笑む。しかし、いつもかけているサングラス越しにみる彼女の瞳はゆらゆらと不安そうにゆれていた。まるで悪さをした子供が親に見つかって叱られるのを待っているような。 彼女は自分に怒られるとでも思っているのだろうか?だとしたら何に対して? の顔を見てキャスケットはそんなことを思う。思い当たるのはあの朝のことしかないが、いくら思い返してみてもキャスケットにはが自分を怖がる理由などまったく思い浮かばなかった。 「・・・・・部屋、入ってもいいか?」 キャスケットが困ったように笑いながらそう聞くと、は小さく頷いて扉をまた少し開けた。 の部屋は、もともと物置のように使われていた部屋だった。まだがこの船に乗る前にもキャスケットはこの部屋に入ったことがあったが、その時と今の部屋はだいぶ印象が違っていた。 部屋の半分は場所をとっているベッドは、木目が粗く残っており、売り物にしては少々雑な出来具合だ。きっと立ち寄った島でアスカが材料を仕入れ急ぎで彼女用に作ったのだろう。 そのベッドの傍には小さなサイドボードが一つ。更にその横には無理やり入れられたのがまるわかりな大きなソファーがおかれ、そして入り口の近くには木製の机と椅子が置かれていた。 (なんとまぁ、・・・よく入れたもんだ。) そんな部屋を見て思ったのはそんなこと。決して狭くはなかったこの部屋がこんなに狭く感じるのはきっと、この様々な家具のせいだろう。 (俺たちの部屋より豪華に感じんのは気のせいか・・・?) いや、気のせいじゃない。自分とペンギンが使っている部屋にはそもそもベッドなどなく、それぞれのハンモックと共有のソファーとテーブルが1つずつ。そして、ほとんどその役目を果たしていないが大きなクローゼットが一つ置かれているだけだ。さらに言えば、アスカとジャックが使っている部屋はもっと酷い。物の数だけ言えばこの部屋以上にあるだろうが、そのほとんどがアスカの持ってきたガラクタばかりなのだ。家具と言えるものがあるとしたら、アスカとジャックがそれぞれ使っているハンモックぐらいではないだろうか。 (と言っても、ハンモックも家具かって言われれば微妙だけどな・・・。つーかあの部屋アスカの持ってきたゴミばっかだし・・・) 本人いわく、ゴミではなく大事な材料、らしいが、アスカ以外の奴からしてみればただのゴミにしか見えない。 そんな、足の踏み場がないアスカとジャックの部屋を思い出してげんなりしてしまったキャスケットは、違った意味で足の踏み場がなくなったの部屋をグルリと見渡すと、部屋の奥に置かれたソファーに腰掛けた。腰をかけてからまた部屋を見渡し、そういえばあの子はどうしているだろうかと、扉の方を振り返ると、は戸惑いを隠せないままその場にただ立ち尽くしていた。 「・・・座れば?」 「(ビクッ)あ、は、はいっ・・・!」 キャスケットの声に、はビクッと体を震わして、その言葉に従うように傍に置かれていた椅子に静かに座った。そんなの態度に、キャスケットは思わず難しい顔を作る。 怯えさせたいわけじゃないのに。 「・・・・・・ここはお前の部屋なんだから、遠慮する必要はねぇだろ?」 「私・・・の部屋・・・」 「おお。もともとここは部屋として使ってたわけじゃないし、お前の部屋以外何者でもない」 キャスケットは笑顔を浮かべながら話すが、はその話を聞くと何かを思いつめたように顔を曇らせた。 「どうした?」 眉間にしわをよせたキャスケットがきく。 何も不安にさせるようなことは言っていないはずだ。むしろその逆で、喜べばいいと思って言ったのに。 腰を浮かせて近づこうとすると、それに気づいたは慌てて「な、なんでもない、です!」と首を振った。あまりにも必死なその姿が、あの朝の彼女の姿とかぶった。 (また、か・・・) 一線を引かれている。 そりゃそうだろう。どこかでその言葉を肯定している自分がいるのは確かだ。会うのも、話すのもこれで2回目で、ましてや相手は海賊で。怖がらないわけがない。 そう、こんな、小さな子が、自分たちを怖がるのなんて、当たり前のことなのだ。 それが、当たり前なこと、なのに。 「なぁ、一つ聞いていいか」 「・・・え?」 「なんで、この船に残るって決めたんだ?」 素朴な疑問だった。 思えば、誰も聞いていないのだ。彼女が、この船に残ると決めたその理由を。 こんな女の子が、海賊船に乗ると言った理由を。 知りたい。でも、聞いてその答えが返ってくるとは思えなかった。なぜなら、それを会ったばかりの自分に言うぐらいだったら、当の昔にベポやドクターに話していたに違いないから。 その予想は当たり、キャスケットが来てからというものずっと顔を伏せていたは一層俯いた。 「それは・・・」 「・・・言いたくない?」 「・・・・・・・。」 素直に聞いてみても、から帰ってくるのはただひたすらの無言。 『はい』でも『いいえ』でもない。 「何か思うことがあるなら言えばいいだろ。何遠慮してんだよ」 そんな態度についイラっとしてしまい、思わず低い声が出る。 案の定は肩をビクッと震わしてカタカタと体を震わし始めてしまった。 そんなの姿に、キャスケットは罰が悪そうにガシガシと頭をかき、何かを考えるように下を向いた。 それから数秒。何かを覚悟したようにハァァーと息を吐き出して口を開いた。 「あの日」 「・・・?」 「3日前の朝、お前に会ったろ、この部屋の前で。あの後から俺は船の見張り当番で、マストの上にずっと居たんだよ」 まるで何か後ろめたいことを告白するように視線を逸らしながら話し出したキャスケット。 しかし、次の言葉を吐くときにはしっかりと目の前に座るを見ていた。 「全部知ってる。全部、聞いてた。」 その言葉を聞いて、はゆっくりと視線を上げた。 「ドクターとお前が甲板に出てきたことにもすぐ気づいたし」 「お前らがなんの話してたのかも」 「お前が、ドクターに嘘をついたことも。」 「全部気づいたよ」 視線が合わさる。 の顔は真っ青だった。 「会いたいんだろ?ホントは。 ホントは、今すぐにも逃げ出したいんだろ?こんな所。逃げ出して、泣き喚いて、ぶっちゃけたいんだろ?俺は、それを確かめに来たんだよ」 title by [ Rachael(レイチェル) ] 2012.01.26 |